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2013/07/02

Bollasの理論について その1

 psypubさんが読んだ事がないというので、Bollasについて私なりに理解したところを書いてみようと思う。という前振り。

 Christpher Bollasはアメリカ西海岸に育ち、今ではイギリス国籍を持った、英国文学の博士号を持つ精神分析家のようである。いくつかの大学で精神分析と文学を教えるという、めずらしい経歴を有しており、これまでに多くの著作を表している。ちなみに最近では自著の表紙は自分の描いた絵で飾っている。私がBollasに初めて接したのは、日本では最初に出版された「精神分析という経験」から数年後、Bollasにとっては最初の著書、「対象の影」が出版された時だった。始めはその書名に魅かれて手を取ったのだけれども(ちなみに対象の影という言葉はFreudの「悲哀とメランコリー」に出てくる一説として知られている)、そこにはそれまでに出会ったことのないWinnicott理解が描かれていて、それが何よりも驚きだった。
 私の指導教員はWinnicottについては良く知った人で、その教えるところも良く理解できるものであったし、そもそも私にとってWinnicottはそれほど難しいものではなく、Kleinに比べるとずっと近づきやすいものだった。けれども、その理解できるものを超えたところまでを知る機会はなく、私にとってのWinnicottは、分かるけれどもそれを携えて心理療法に臨めるものではなかったのだ。日本で紹介されるWinnicottの仕事は当然のことながら母子関係のそれを中心としたものであったが、私はむしろ「愛情剥奪と非行」にあるような、同じ母子関係を扱いながらも非行や反社会性との取り組みを記述したところからそれに近づいていた。もちろんそこには、私の関心が司法領域に向いていたという理由もあっただろうと思う。けれども、いずれにしても、存在することと関係すること、対象と関係することと対象の使用、といった独特の術後で描かれる世界を、私は臨床的に理解できたとは言えなかっただろうと思う。
 それは私のせいばかりではないだろう(と思う)(と、言い訳をするけれども)。Klein派が1つの派として、後継者を育て、理論を発展させ、臨床記述を重ねてきたのに比べると、Winnicottの後には派がなく、唯一といって良い後継者のKahnはあの通りであり、それがどのように臨床的に展開するかということは見通せるわけではなかった。

 ちなみに、Winnicottが全く理解できないという人に時々出会うけれども、そういう人にお勧めなのは、「設定状況における幼児の観察」と「破綻恐怖」です。

 閑話休題。そういうわけで、Bollasは私がようやく出会うことのできた、Winnicottの臨床を生きる理論家であった。BollasはおそらくWinnicottの系譜に位置づけられると思うのだけれども、彼が依拠しているのはそれだけではなく、Bion、そしてLacanの名前もしばしば挙げられる。もちろんFreudを忘れることはできないけれども。私はLacanについてはあまり、というかほとんど知らないのだけれども、それでも他の理論家に比べるとBollasの記述は、その経歴を反映して、かなり詩的で、文学的で、そして曖昧であることは分かる。Bionが数学的に、科学的に心の現象を記述しようとしたのに比べると、Bollasのそれは何を描いているのか分からないと思う人がいたとしても不思議ではない、とらえどころのなさを表している。例えば「対象の影」には対象としての自己という言葉が出てくる。そうかと思うと「精神分析という経験」の中では心という対象という表現が使われ、そのうえ自己は心に投影したりもするのだ。それはKlein的な自己、対象、投影の付置に慣れている者にとってはほとんど理解しがたい言葉の選択となる。一度、精神分析家を含んだ研究会でその表現に出会った時には、その場にいた誰もがその意味を理解できなかったくらいだ。
 けれども、そのことがBollasが捉えようとしているものについて一貫性がないことを意味しているわけではないことが、今では分かる。今なら、Bollasが何を見、何を聞き、何を感じ、記述したのかを、私なりに描き出すことができるだろうと思う(例え他の誰かがその人なりのやり方で同じことを異なって描くとしても)。

 そこには内的現象が記述されているのではなく、全体的体験が生成されているのだ。
 ということを書いていると、あっという間に長くなるので、これから数回に分けて(かどうか分からないけれども)私なりに理解するところを、説明することなしに描き出すことができればと思う。

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