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2010/08/29

司法心理療法―犯罪と非行への心理学的アプローチ

 司法領域における心理療法を扱っている書籍自体少ないが、その中でもこれは精神分析的な心理療法について書かれたもの。検索してみると精神分析的な司法心理療法(forensic psychotherapy)の書籍はいくつかあるようだが、日本語になっているのはこれだけだと思う。もともとの書籍は「Forensic Psychotherapy: Crime, Psychodynamics and the Offender Patient」という2冊組の書籍であり、その第1部が理論編、第2部が実践編という構成になっている。そのうちの第1部が翻訳されたもの。

 内容は分析的な概念としての「行動化」「転移と逆転移」「防衛機制」の解説とその理法心理療法での表れについての例示から始まり、精神分析的司法臨床の周辺の心理療法や犯罪学、システム論などの解説、性的発達と精神病理と犯罪との関連といった理論的な概説があり、その後で精神病と犯罪、暴力、殺人、非行、などの精神分析的理解の章が連なる。最後にグループについての言及が、Foulkesによる集団分析、Morenoによる心理劇の2章で行われるという構成。おおまかな理解として、幼少期の体験と犯罪との関連、そこでの罪悪感および投影の役割が繰り返し強調されていると言えるだろう。
 出版社がJessica Kingsley Publishersであり(といってもどんな出版社なのか知らないけど)、主に英国の分析家によって書かれているため、英国での話なのだと思うが、向こうでは刑事施設を出た人たちが集中的に治療を受ける病院というものがあるようで、民間の病院よりはそういった機関での臨床経験が語られているようである。もちろん刑務所などの中での話も含まれているが、簡単な臨床ヴィネーしかないものの、なかなかのリスクを持った人たちを病院で引き受けているんだなというのは驚きである。犯罪者の精神分析的心理療法についての情報が少ないため、ここに見られるものは貴重な理解となる一方で、訳されているのが理論編であるためか、おおまかに言ってしまえば他の領域での精神分析的理解とそう変わるものではない。むしろ犯罪という一線を超えた人々と対峙した時の緊張感を、言い換えればその転移−逆転移の力動やそこに生じている対象関係をこそ、もう少し描くべきだったのではないだろうかとの感想を持った。そのあたりは実践編に期待(実践編は訳されるのだろうか?)。
 残念ながら、翻訳の質にムラがあり、おそらく専門用語ではないだろうかと思われるところがそれとして訳されていなかったり、意味が違って訳されていたりする箇所が散見された。精神分析的な書籍である以上、精神分析的な概念や理解に関してはもう少し整理されていると良いのだけどと思った。とりあえず原書を手に入れて、そちらを読んでみることにした。

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