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2007/04/17

スクールカウンセラー雑感

 私は普段ほとんどテレビを見ないのだけど、昨日たまたまテレビを見ていたら、ある荒れた中学校の様子が映し出されていた。番組は元暴走族だった人がその中学を立て直すために民間の相談員(何とかという名前があったけれども忘れてしまった)として入っていくというもので、その一場面に窓から同級生のかばんや靴を放り投げる生徒に向かって、「今度はおまえが飛び降りて来い」という場面があった。何回かのやり取りの後で、結局生徒は「むり、こえ〜」と答えたのだけど、上手だなぁと思った。

 荒れた中学には私もスクールカウンセラーとして入ったことがある。そこではいじめられている生徒や不登校になりそうな生徒、教室に入れない生徒がある程度いてそうした生徒のための部屋が作られたりもするが、案外そうした部屋は非行系の生徒がたむろする場所になりやすく、相談活動が難しかったりもする。学校によっては休み時間には開放しないようにしていたり、予約だけで相談活動をしていたりもするようだが、そうした制限を課しておかないと荒れた学校ほど潜在的にいるだろう悩んでいる生徒に対応できないという自体になりやすい。
 非行系の生徒たち(という括りもどうかとは思うが)はそうして守られている秩序を壊すことに楽しみを覚えているし、その背景にあるのは教師への不信であったり、親への仕返しであったり、快楽の追求であったり、調子に乗っているだけだったりさまざまだけれども、どちらにしてもルールは破るものだと思っている。多分そこにあるのはどちらが強いかどちらが思い通りにできるかという駆け引きでもあって、特に男子の場合はそうだろうと思う。
 一度私はそうして部屋を荒らす男子生徒を部屋から追い出したことがあって、そのままどこかへ行こうとするのを追いかけてつかみかかったことがある。結局その手も振り払って彼は教室に戻っていったが、その後からそれまでは睨みつけてしかこなかった彼が小馬鹿にしながらでも挨拶をしてくることがあって、彼らにはそうしてどこかでぶつかってあげることが必要なのだろうと思う。
 大事なのはそうしてぶつかりながら、ごくまれに彼らが見せる弱いところを責めないことだろうと思っている。普段悪さばかりしているので、ついついそうした機会をつかまえて、普段の行いをたしなめ、今の状況がその結果だとかいうことを言いたくもなるけど、それよりはそうした弱さに耳を傾けておくほうがつながりというものは築かれやすいように思う。ただそれはごくまれにしか見せないので、そうした弱さをつかまえられるまでには時間がかかる。心理臨床の重要な側面のある部分は時間を提供することだと私は思っている。

 そして別の側面は弱さをめぐるものだと思う。
 人間はみんな弱い。その弱さがどういったもので、それをどんなふうに防衛しているかというところに個人差があるのであって、私たちの心理療法は、あるいは臨床活動は基本的にはその弱さをめぐって行われていると思う。非行系の生徒たちは、弱さを強さで隠そうとするし、自分の弱さを否定するためにも秩序を破り、背伸びをし、攻撃を続けなければいけなくなっている。

 長いこと回り道をしたけれども、そうした生徒を前にして、多分最初に書いたような彼らの遊びに乗っかっていくという関わり方は、弱さを出さないように警戒されずに近づいていくためにはうまい方法なのかもしれない。ただそれが実際には難しく、今の状況では教師もスクールカウンセラーもそんなことはできないだろうなと思うのだけど。例えばテレビの場面で生徒が本当に飛び降りて、ケガをしたり、ケガをしなくてもそのことが問題になったりしたら、「大人が生徒を挑発してケガをさせた」ということになってしまうだろう。下手をすれば新聞沙汰にもなるし、校長らが何らかの処分を受けるかもしれない。そうしたことを警戒して、次からは教師側からたしなめられるかもしれない。「誰が責任を取るんですか」とか「問題になったらどうします」と言って。
 多分、昔から非行系の生徒への関わりの上手な教師というのはいて、でもちょっとしたことが事故につながったり、メディアで取り上げられている間に、誰もそうした型破りな対応ができなくなっていったのだろうと思う。それは決して責任を問うてくる側の人を非難しているわけではない。ルールは簡単に破るわけには行かないし、ケガをさせない、悪さを助長しないというのはやはり基本的なルールだろうと思うからだ。
 教師だって生徒のためを思っているし、スクールカウンセラーだってそうだろうけれども、そのためにルールを破る彼らに付き合えるかというと、それはそれなりに覚悟のいることだ。定められた枠組みのなかで、その枠組みを壊していく彼らに対応しきれるのだろうかと思ったりする。でも逆に、まずい対応が取り沙汰される時には、取り上げられてはいないけれども同じようなやり方でうまくいっていた他の事例についても考えておかなければいけないのだろうし、こうしたどこまでやるかという線引きの難しさ自体が彼らが持ち込む駆け引きなのだろうと思う。私たちにはどう対応するかという方法論と、どう覚悟を決めるかという精神論とが必要なのだろうし、それを一人で抱え込まないための工夫と説得力もまた必要なのだろう。そんなとりとめもないことを考えながら番組を見ていた。

 まあ一般的に言って、非行系の生徒一人一人にぶつかっていくということは、スクールカウンセリング活動においては稀だと思うけれども。

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