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2006/10/22

クリティカルシンキング—研究論文篇

 アメリカの臨床心理学者が書いた、心理学論文を批判的に読むための本。2部に分かれていて、1部はクリティカルな読み方に必要な観点を整理し、2部は創作論文を通じてクリティカルな読みを実践している。

 学部生にこれを読ませているが、書かれている本質的な部分については、目的と方法との一貫性、変数の設定、研究のデザインについてなどそれほど難しいことはなく、ごく当然のことが記されている。当たり前ではあるが、気をつけていなければすぐにおろそかになってしまうことばかりだ。その意味でこれから卒論に取り組む彼らには頭に入れておくといいことがあげられていると思う。
 しかし、いくらか訳語が固く、あるいは分かりにくく(たとえば「研究上の問い」などは「research question」の訳ではないかと思うが、そのまま「リサーチ・クエスチョン」でよいように思う。)、また話が前後しやすいという難点がある。独立変数とは何かの話の時に、後に出てくる因果関係や原因の話が混ざり、因果関係や原因の話の中に独立変数や研究デザインの話が混ざったりする。それを分けながら読みこなしていくためには、結局ある程度の研究全体についての知識が必要で、その意味では学部生が一人で読みこなすのは難しいだろう。
 あくまで論文作成のためではなく、論文抄読のためという位置づけのようだが、これまでに研究をしたことのない人、あるいは研究デザインに気をつけて研究することを指導されてこなかった人には、読みこなすのが難しいように思う。ターゲットはどこにある本なのだろう。

 学生が感想として言っていたことだが、ここに書かれていることを完全に満たすような研究を行うことはできない。理想的な研究などどこにも存在しない。理想的な人間がどこにも存在しないようにだ。
 でも、だから私たちはごく一部分だけをしっかりと統制し、研究を行うのだし、そうした研究を集めて学問というのは先へ進むのだと彼には伝えた。逆に言えば、どこの部分がしっかりと抑えられ、どの部分が抜けているかを理解しながら論文を読むことが、そこに書かれていることを取捨選択する上では必要なことだとも言える。やれるだけのことはやる。けれども完璧にはなれない。私たちの身の丈というのはそういうものだと思う。
 理想的な研究などできはしないけれども、それでも自分の力をきちんと使って卒業論文にして欲しいと思う。それはきっと苦しいけれども、大学でできる最後の思い出でもあるだろうと思うからだ。

 いずれにしてもこの本の利用の仕方としては、読みにくいながらも一通り目を通して、気がついた時に振り返れる索引を自分の中に作っておくといいのではないかと思った。

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